失われた世界を探して

ロストジェネレーションのしみじみ生活

熊本ラーメンへの敬意と薩摩の国で途方もなく美しい風景を見たこと

 九州一周旅行は続く。嬉野温泉から鹿児島へ向かう途中、熊本に立ち寄った。熊本城は震災の修理で近づけなかったけど、遠くから見てもその雄姿に心打たれた。熊本の人々は本当に誇りに思っているんだろうなと思った。あんな雄々しいお城は他に見たことがない。清正という男を想像し、向こうに見える天守をしばらく眺めた。

熊本はどのみち数日後に阿蘇に戻って来る予定で、まずは鹿児島まで走り切ってしまおうと思ったけど、やっぱり熊本ラーメンを食べたい。からし蓮根も食べたい。と思い始めたらまっすぐ走れなくなった。

ということで熊本空港へ寄り道して2つとも食べた。本当はちゃんと市内の有名店なんかを調べて時間を割いて行きたかったけど、その日のうちに鹿児島へ移動する必要があったので、両方いっぺんに揃っている上に味も評価が高かった空港の店で食した。これまた美味しい!

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よくインスタントラーメンで熊本ラーメンを銘打って売っているが、あれは全く別ものである。熊本ラーメンは不必要に油っこくなく、不必要に臭みもない、上品で深い味わいのスープが特徴だ。あっさり平らげた。

 熊本から僕たちは鹿児島へ向かって走り続けた。宿は指宿にとってあった。指宿を目指した理由は家人が「砂風呂に入りたい」というベタな希望を申し述べたから。

日が暮れても走り続けた。鹿児島にいるっていうだけでワクワクしていた。いよいよ薩摩の国にやって来たんだ。下道をだいぶ走って僕たちは19時ごろにようやく旅館に到着した。案内された部屋で、さっそく西郷さんが出迎えてくれる。

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 まずは温泉に浸かって食事を、といいたいところだが、やっぱり最優先は目的の砂風呂である。食事は後回しにして、旅館に併設された砂風呂施設に行くと、手順をイラストで書いた看板の通りに、専用のガウンみたいなのに着替え、シャベルを持った2人組のおじさんのところ(砂場)へ歩いて行った。おじさんたちは慣れた手つきでシャシャッと砂の上に窪みを作り、そこに仰向けで寝るように僕たちに指示した。言われるがまま寝るとあっという間にシャベルで砂が体にかけられて顔だけ地面に出すという、あのテレビで見た通りの状態に二人ともなった。想像していた以上に熱い。そして一番感じたのが、想像していた以上に「砂が重い」ということだった。よく映画のマフィアものなんかで、土で生き埋めにされるシーンを見るけど、こんな表面の砂を掛けられただけですごく重く感じるのだから、砂で息が出来ないとかの前に、あのギャングたちはきっと重さで潰れそうで胸が苦しいとか、そんな感じだったのかなぁなんて考えていた。しょうもない話である。隣では家人が気持ちよさそうに土に埋められ寝ている。

10分もしたら身体がポカポカになった。僕たちは砂から這い出し、シャワーを浴びて土を落とした。驚いたことに、本当に温泉に浸かったあとくらい、体の芯から温まり、たくさん発汗していた。体をきれいに洗って浴衣に着替え、いよいよ食事に向かう。

食事は土地の野菜や近場の海でとれた魚介を使ったものだった。美味しく頂いた。ビールを飲んだら長時間の運転で溜まった疲れが一気に出てきた。あぁ今日は九州を一気に縦断したな、楽しかったな、なんて思いながら部屋に戻り、布団の上で酔いが回ってそのまま記憶を失ってしまった。

 目が覚めたら明け方だった。昨夜は遅くに旅館に着いたから、部屋の窓の外は真っ暗で何も見えなかったし、まずは砂風呂だ、って飛び出して行ったから、朝になって初めて、カーテンを開け外の景色を目にした。そしたらベランダの向こうはなんと海だった・・・

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しかも無茶苦茶きれいな海だ。昨晩、食事会場に向かう途中、すぐ近くで戦時中にこの海から飛び立って行った悲しい歴史がパネルで解説してあり、読んでいた。そうか、こんな美しい海からだったんだ・・・

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向こうから朝日が昇り始めた。美しい場所だと思った。何も言葉が出てこず、僕はずっと海を見ていた。

朝食は本当に美味しかった。このとき鶏飯(けいはん)という奄美地域の郷土料理を生まれて初めて食べた。温かいご飯に錦糸卵やシイタケの煮物や鶏のほぐし肉や紅ショウガなど好きなものを乗せて、鶏ガラスープをかけてお茶漬けのようにして食べる料理だ。

f:id:tukutukuseijin:20211225095243j:plainこれが本当に美味しく、僕は何回もおかわりした。九州というところはどこへ行っても郷土料理で美味しくなかった試しがない。市井の人々の味へのこだわりと代々の工夫がいっぱい詰まっていて、単に美味しいというより、人間の温かみを感じる料理ばかりだと思った。

 チェックアウトし、ちょっと噴火したばかりの桜島を横目に、宮崎へ向かって走り出す。途中でお約束だけど、黒酢の壺畑へ立ち寄り、そのちょっと噴火した桜島をお約束の構図で記念にパシャリと撮っておいた。

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あぁなんだか、もっと時間をかけて回りたい土地だなぁ、また絶対来たいなぁなんて思った。僕の薩摩の国の印象である。明らかに、僕たちが触れたのはこの土地の魅力のごく一部に過ぎないんだろなと思った。

 九州一周旅行が始まって4日目の朝だ。まだまだ僕たちの旅は続く。駆け足だけど、めったに来れない場所だから、見れるだけ見て、料理も土地の魅力も、短い時間の中で味わうだけ味わいたいと考えていた。

空はどこまでも青い。

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