失われた世界を探して

ロストジェネレーションのしみじみ生活

女心はくすぐられなかったようなので、自分が頑張ってオシャレな小物を揃えて家族の健康を祈ったこと

 家を建てた時に高品質低コスト・「住む」を目的に機能と動線を最優先、という具合に僕は話を進め、毎回、工務店との打ち合わせの都度、PCを持ち込み、事前に自分でエクセルで引いたレイアウト図や希望する仕様や材質を提示し、あわせてやはりこれも事前にネットで調べたそれらの相場価格、一般的な工賃、工務店側の想定利益(取り分)などをこちらから提示し、交渉の上、最終的に思い通りの家と金額になった。

 普通は家を建てる時は、やはり夢のマイホームであり、「夢」の大半は奥さんの夢である場合が多いので、住宅営業マンは打ち合わせ時に常に奥さんの顔を見て語り掛け、「おしゃれな吹き抜けの〇〇はどうですか?」「おしゃれな出窓をこのあたりに取り付けたらどうですか?」とか、要するに女心をくすぐって口車に乗せて、およそ機能性とは無縁でそのぶん工務店にとっては利益幅の大きいオプションをどんどん勧めて来るのだが(あっという間に見積金額がとんでもない額になる)、ウチの家人の場合は「旦那に一任する。旦那には、とにかく私が年をとっても快適に住める家を作るよう指示済み」ということで、毎回ニコニコしているだけで、一切、口車に乗らなかった。

 結局、住宅営業マンが「我々も最低限の利益を乗せないと上から怒られますので、勘弁して下さい」と言うところまで僕が交渉を進め、無駄のない、でも住む分には快適な高品質のマイホーム仕様が決まった。メーカー勤務数十年のシゴトの延長戦で家を建てた感覚だ。工場を建てる時に業者と打ち合わせする時とあんまり変わってない。

 が、外構も含め全部が決まってしまうと、なんだかこのままではあんまりにも機能を重視し過ぎて、遊びの部分が無さ過ぎ、ちょっと心配になって来た。マイホームは工場ではないのだから、機能や品質だけではいけなかったのかも、なんて遅すぎる後悔が始まる。外観の壁の色や屋根の瓦の色、玄関のドアのデザインや部屋の壁紙の種類など、見た目に関するものは全部、家人に選んでもらったけど、たいていはニコニコして「じゃ、これでいいわよ」と言う感じでサクサク決めてあんまりこだわりも無さそうで、それはそれで不安になって来た。どうも調子が狂う。

 で、リビングにウォールシェルフ(壁に取り付ける棚)をつけてもらって、そこにおしゃれな置物を置くことにした。家人に言うと「いいんじゃない」と相変わらずニコニコしているだけである。僕はネットでウォールシェルフを検索し、一番、部屋の雰囲気に似合いそうなものを見つけ、取り付け費用も含めた相場も調査し、エクセルで壁のどの位置にいくつ取り付けて欲しいのかレイアウト図を自分で描いて、翌週の工務店との打ち合わせに持って行った。

 そうなると、そのシェルフ(棚)に何を乗せるか考えないといけない。これも家人に好きなものを乗せるよう言ったけど「一任する」と言う相変わらずの返答だったので、あれこれ考えて、1段目はカフェ風に、コーヒーのドリッパーとサーバー、それに手引きのドームミルを乗せることにした。真ん中にコーヒーの生豆を麻袋に詰め、実際に炒って挽けるようにする。

う~んなかなかいい感じ。これはこの後、実際に家を見に来た家族や友人の目にとまり、その場で豆を挽いてドリップしてリビングでコーヒーを飲んで頂いた。大好評だった。

 シェルフはもう一段ある。何を乗せようか?家人にもう一度希望を聞いたけど「一任する」とのこと。こりゃ困った。ネタがもうないぞ。さんざん悩んだ挙句、やっぱりデザインと「祈り」が一致するようなものを置くことにした。「祈り」とは家族の健康のこと。デザイとはせっかくなのでオシャレなのがいいとういこと。

 ネットでいろいろ調べて、生まれ年の干支の置物を家に置くと長生き出来ると書いてあったので、そうか、家人は午年(うまどし)だから、おしゃれな馬の置物を置くことにした。リビングを含め、家の中が開放感があるように壁紙は白にしていたから、白いリビングに似合う置物がいいな、なんて考え、ダーラナホース(スウェーデンの伝統工芸品である木彫りの馬)のうち家人の好きな水色のを買った。

大中小の3点をシェルフの上に並べてみる。いい感じだ。

さらに、女性が悩みがちな便秘を解消するのに縁起がいいという(女性の健康を守る縁起を持つ)豚の置物を置くことにした。豚は縁起がいいんだね。長生きするだけじゃ駄目。元気で健康でいて欲しい、そんな気持ちで選んだ。

これもいい感じ。なんだか全身で福を運んで来てくれそうな豚さんだった。

ダーラナホースは手作りらしいけど、あとのコーヒーの道具も、豚さんの置物も大量生産された製品ではある。でも僕はそのデザインを考えた人の思いと、それを世の中にデビューさせるために携わった人たちの情熱と、出来上がった製品のしみじみした味わいを受け止め、やっぱりいいなぁと感じる。それらは全部、僕たちの人生にとって大切な、しみじみ味わうべき芸術なのだ。

最近はパンデミックのせいで在宅勤務も多く、家で仕事をすることが多くなったが、ミルでコーヒーを挽いて飲みながら、休憩時間にこの「祈り」の棚を眺めている。

機能と品質重視の我が家にあって貴重な遊びの部分が、祈りとともにこんな小さな棚に集約されていて、僕は大満足で眺めている。家人の便秘が治り、いつまでも元気でニコニコ長生きしてくれますように。

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